三毛猫のオレンジ色の毛色を決める遺伝子の謎が60年越しに解明

三毛猫やサビ猫の毛色の仕組みをめぐる60年来の謎が、ついに解明された。アニコム損害保険株式会社と九州大学を中心とする研究グループは、三毛猫のオレンジ色の毛色を決定する遺伝子領域を特定し、その仕組みを明らかにしたと発表した。
これまで、三毛猫やサビ猫のほとんどがメスであること、そしてオレンジと黒の毛色を決める「オレンジ遺伝子」がX染色体上に存在することは知られていたが、その正体は不明だった。今回の研究で、X染色体上の「ARHGAP36」遺伝子領域に約5,000塩基の欠失があることを発見。この欠失が、オレンジ色の毛色の決定に関わっていることが突き止められた。
福岡市内の動物病院の協力を得て、毛色の異なる18匹の猫のDNAを解析。その結果、オレンジ毛を持つ猫すべてに同じ欠失が確認され、さらに50匹以上の追加調査と海外データの参照でも、欠失の有無と毛色が完全に一致していた。この欠失領域には動物種を超えて保存された配列が含まれており、遺伝子発現を制御する役割があるとみられる。
オレンジ色の毛が生えた皮膚では、この欠失によりARHGAP36遺伝子の発現が上昇。その結果、メラニン合成遺伝子群の発現が抑制され、黒色のユーメラニンからオレンジ色のフェオメラニンへの合成切り替えが起こることが示唆された。また、DNAのメチル化状態の解析により、ARHGAP36はX染色体の不活性化に伴って高度にメチル化されることも確認された。
本研究は、1961年に提唱されたX染色体のランダム不活性化による毛色の斑模様の仮説を、遺伝子レベルで裏付ける世界初の成果となった。さらに同号の米国科学誌「Current Biology」には、スタンフォード大学による同様の研究も掲載され、日米の独立した研究がほぼ同時に同じ結論に到達した形だ。
研究代表の佐々木裕之特別主幹教授は、「エピジェネティクスの代表例として知られる三毛猫の毛色の謎が、退職を機にクラウドファンディングの支援を受けて解明できたことは望外の喜び」とコメント。今後は、この欠失がどのようにユーメラニン合成からフェオメラニン合成への切り替えを引き起こすのか、さらに詳しい分子メカニズムの解明が期待される。
今回の発見は、猫の毛色形成の歴史的起源や進化の過程を探る上でも重要な手がかりとなるとともに、ARHGAP36遺伝子はヒトでも皮膚の病気や腫瘍などとの関わりが報告されており、人間の疾患解明への応用も視野に入る成果だ。
本研究は九州大学クラウドファンディングの支援を受け、619名の支援者による寄付で実現した。論文は2025年5月16日付で米国科学誌「Current Biology」に掲載された。
(C)アニコムグループ